ご提案:地積測量図に高さ情報を

利用されないネットワーク型RTKの規程
― その利用拡大のための提案 ―

ネットワーク型RTKにより、直接位置を決定できます。画期的な測量技術です。ところが、この技術の利用規定がほとんど使われず、死文化しています。何故でしょう。一言でいえば“不合理な規定”ということです。その内容を分析し、ネットワーク型RTKや精密単独測位(PPP)等の座標観測の利用拡大を考えます。

 相対測位に依拠した規定

私達の求めるものは、地球上の絶対位置(座標)です。三角測量時代、地球上の絶対位置は、天の恒星を既知点とした天文測量により求められてきました。天文測量の観測精度は、テニスコートの範囲であるといわれ正確ではありません。また、ジオイドの傾きの影響により、日本の位置は400mの誤差となって表れました。天文測量により得られた絶対位置を出発点とした三角測量により正確な相対的位置関係を構築してきました。GPSが実用化した後も基線ベクトルによる相対測位によって位置を決定してきました。

 利用されない公共測量作業規程のネットワーク型RTK【注1】

21世紀に入ると、ネットワーク型RTKにより、地球上の絶対位置が求まるようになりました。素直に、その座標観測値を使えばよいのですが、相対測位に慣れ親しんできたので、座標を観測値として扱う発想は生まれませんでした。座標差から基線ベクトルを計算し、相対測位に置き換える規定にしました。結局、古い枠組みのTS(トータルステーション)の代用として3、4級基準点測量にネットワーク型RTKの利用を押し込めてしまいました(公共測量作業規程の準則第37条)。この規定は、“直接法”とか“間接法”とか複雑化した内容となっています。1台の受信機で観測を行う場合、次の観測点への速やかな移動が規定されていて、アンテナを持って走ることから“体育会系向き”と揶揄する人もいます。 3、4級基準点測量の場合、ネットワーク型RTKによる方法よりもTSによる方法の方が安定的成果を得られるし、又作業者は慣れています。結論的にいえば、使い勝手の悪い正確さに欠ける相対測位によるネットワーク型RTKの規定は、ほとんど使われていません。

 利用されない地籍測量作業規程のネットワーク型RTK【注2】

一方、地籍測量の場合、筆界点上でネットワーク型RTKによる単点(座標)観測を行うようになっています(地籍調査作業規程準則第70条5:平成22年)。この場合、相対測位から抜け出して、基準点測量を省略して座標観測値をそのまま使う内容で、画期的なものと思います。しかし、筆界点の上空視界が必ずしも万全でなく、使い勝手が悪くほとんど使われない死文化した規定となっています。

あまりにも利用がないので、担当の地籍整備課は、「平成27 年4 月14 日(Ver1.0)ネットワーク型RTK法による単点観測法マニュアル」を作成しました。 国土交通省 地籍調査Webサイト内PDF

マニュアル作成の理由は、「?内容の周知徹底?低精度の甲三乙への活用」をもって利用者を増やそうというものです。筆者の推定では、このマニュアルは、ネットワーク型RTKの利用促進には効果が薄いものと思います。理由は次の2点です。

理由1:法務省は、この手法を否定しています。登記研究701((株)テイハン)平18.7 カウンター相談は、地積測量図の世界測地系座標を得るための筆界点上における単点観測法を否定しています。主な理由として、次の2点を示しています。

? 電子基準点が既知点として使われるが、それは遠方に位置し、筆界点の復元にふさわしくない。

? 電子基準点座標は、地殻変動で移動する。【注】当時は、セミ・ダイナミック補正が行われていなかった。

以上の理由を基に、平成18年釧路法務局が釧路土地家屋調査士会に宛てた通知は、筆界点上における単点観測を完璧に否定する“準則第70条5のような手法により作成された地積測量図は受理しない。”という内容となっています。

理由2:この場合も本来TSで正確に行うべき筆界の位置関係を、ネットワーク型RTKで代用しようという発想であるからす。

図1 2点間の距離の精度
図1 2点間の距離の精度

図1は、2点間の距離の公差(3σ)を表したものです。ネットワーク型RTKの2点間の距離の公差は、測定距離に関係なく31mmです。TSの公差は100mの距離測定で10mm余りです。土地の図形や面積を測るには、TSの方がはるかに正確です。従って、ネットワーク型RTKにより得られた筆界点間距離は、誤差の限度を超える可能性があります。
【注】上記の公差31mmは、2004年印旛沼における実証実験のデータから推定した値です。

 ネットワーク型RTKの利用拡大の提案

現在の地籍測量作業規程は、次の工程で実施されています。

0. 電子基準点

1. 地籍図根三角測量

2. 地籍図根多角測量

3. 細部図根測量

4. 一筆地測量

先述の第70条5は、「電子基準点」から、途中の基準点測量等の工程を省略し一挙に「4.一筆地測量」へと飛んでいます。

 地籍測量へのご提案

2018年度に予定されている実用準天頂衛星の4機体制などで、日本における衛星測位は、ますます発展していきます。こうした技術の発展を国民生活へ還元するための提案を行いたいと思います。

図2 細部図根多角点における単点(座標)観測点
図2 細部図根多角点()における単点(座標)観測点(

図2は、地籍調査作業規程準則第59条に規定された地籍細部測量における細部図根測量網です。上空視界が良好な細部図根点を選び()その位置で単点(座標)観測を行います。広域に多数の単点(座標)観測点が万遍なく配置された網は、座標の正確さを保証します。

本提案の測量工程を図3に示してます。基準点測量である地籍図根測量を省略し、座標取得は地籍細部測量における上空視界の良好な場所での単点(座標)観測により行います。地籍細部測量における細部図根測量と一筆地測量のそれぞれの多角測量は、それを区別することなく、地籍細部測量のものとして扱います。本提案により、電子基準点を既知点とした地籍細部測量を行う簡単な工程とすることができます。

図3 本提案の測量工程:地籍図根測量を省略
図3 本提案の測量工程:地籍図根測量を省略

TSによって得られた観測値「水平方向角・斜距離・高低角」とネットワーク型RTKによって得られた座標観測値(水平座標及び標高)を結合して処理を行い、各点の水平座標及び標高を決めます。ここでは、細部図根測量と一筆地測量を特段に区別していません。手順をまとめると、次のとおりとなります。

? TSにより地籍細部測量網を設置する。

? 細部図根点又は筆界点のうち、上空視界の良好な点を選び、単点(座標)観測により座標を決定する

? TS観測による距離・水平方向角・高低角とネットワーク型RTKとによる座標観測値の同時網平均を行う。

? 以上により、筆界点を含む地籍細部測量網の座標が正確に決まる。

? 上記計算の処理は、品質管理手法が確実な弊社の「3D-BMB世界座標取得システム」が役立つ。

 地積測量図作成へのご提案

地籍調査に基づく年間の認証筆数は、筆者の調査によれば約70万筆です。一方、土地家屋調査士が扱う年間筆数は、約200万筆です(林千年土地家屋調査士会連合会会長:月刊測量2014年2月による)。地積測量図は、国土調査法第19条5項に基づき、地籍調査の成果として採用される可能性があります。上空視界の良好な場所を選んで単点(座標)観測を行い引照点等の正確な座標を決めます(図4)。筆界の位置関係(面積)はTSで正確に決めます。

図4 上空視界の良好な場所での単点観測
図4 上空視界の良好な場所での単点観測

地積測量図の世界測地系座標化は、不動産登記規則第77条第1項において規定され、その基準点(基本三角点等)は同規則第10条第3項において規定されています。この基準点には、主として2004年度〜2006年度に設置された街区基準点が使われています。街区基準点は、主な都市に設置されていますが、十分な配点密度とはいえません。それを補うのが、平成19年の土地家屋調査士会連合会長の「地積測量図作成におけるネットワーク型RTK-GPS 測量について(通知)」に基づくもので(図4の手法)、法務省も非公式に認めている方法です。この通知による手法が、登記基準点と同様に第10条第3項に規定された基準点として活用されれば、地積測量図の世界測地系座標化が法律的根拠を得て一段と進み、地籍調査にも大きく貢献する可能性があります。

 ネットワーク型RTKによる位置の絶対正確度の実証実験

ネットワーク型RTKに関する実証実験は、多数存在します。しかし、位置の絶対正確度を目的とした実証実験は見当たりません。すなわち、この技術をTSのような相対測位としての活用を考えている限り、思いつかないのです。弊社は、3配信事業者のネットワーク型RTKの座標の較差に関する実証実験を行いました(図5)。

去る3月下旬に名古屋市郊外において、早朝9時から夕方6時まで観測した結果です。スタティック測位の結果からの座標差を示しています。水平のX(南北)成分は、A社とC社では5センチメートル余りの差異が生じています。Y(東西)成分は±1センチメートル以内ですが、高さ成分は10センチメートル近い差異を生じています。弊社では、引き続き夏場の季節等の影響を調べる実験を行う予定です。

図5 ネットワーク型RTKの絶対正確度:スタティック測位結果との座標差
図5 ネットワーク型RTKの絶対正確度:スタティック測位結果との座標差

配信事業者による座標の差異は、国土地理院が公開している公的な地殻変動補正パラメータを使うことによって、公的に統一され、概ね解消されるとは思いますが、図6に示すような年度末誤差が生じます。

図6 「セミ・ダイナミック補正」と「セミ・ダイナミック リダクション」
図6 「セミ・ダイナミック補正」と「セミ・ダイナミック リダクション」

すなわち、国土地理院が公開する公的な「地殻変動補正パラメータ」は、その年度を通じて、1月1日の座標が今期座標として使われます。従いまして、年度末には15箇月前の座標を使うことになり、年度末誤差を生じます。東北の余効変動量は年間10センチメートルを超える場合があり、こうした地域での年度末誤差は無視できません(図7)。図7は、国土地理院公開による地殻変動補正パラメータSemiDyna2016.parを使って弊社が作成した水平地殻変動図です。精密単独測位(PPP)により得られたリアルタイムの位置は、測量法の位置である元期の位置と図7程度差異が生じます。大きいところでは1メートルになり、日本中のどこでも数10センチメートルを超える差異を含んでいます。

図7 累積地殻変動(期間:元期〜2016.0)
図7 累積地殻変動(期間:元期〜2016.0)国土地理院公開の地殻変動補正パラメータSemiDyna2016.parを利用して弊社が作成

 セミ・ダイナミック リダクション

年度末誤差をなくすため、弊社は「セミ・ダイナミック リダクション」を開発しました。

図6に示すように、「セミ・ダイナミック リダクション」は国土地理院が公開している日平均値の最終解である「F3解」に基づいて、リアルタイムの地殻変動補正を行うものです。

この補正により、精密単独測位(PPP)で得られたリアルタイムの座標を測量法上の元期の座標に化成(リダクション)できます。

【注】国土地理院は、日平均値として迅速解(Q3解)、速報解(R3解)及び最終解(F3解)を公開しています。F3解は、精密暦により得られた正確な座標です。

 3D地籍図・3D地積測量図への貢献

現在、国際測量者連盟(FIG)は、「3D地籍図化」を進めていて、地籍図の3D化は世界的傾向となっています。今回の弊社提案手法によるネットワーク型RTKから得られた標高を基に、3D地籍図は極めて容易に作成可能となります。弊社が開発した3D-BMB世界座標取得システムは、3次元対応も可能です。

公共測量作業規程の準則(第43条)による標高の精度は、標準偏差=20cmですから、現状のネットワーク型RTKで達成できる精度です。

 進まぬ新技術の活用

経緯儀による角度観測と光波測距儀による距離測定は、1980年代にはTSによる一体化した3次元観測が行われるようになりました。このとき、TSによる観測値の3次元処理が可能となりました。しかし、現在でも、わざわざ水平網平均と高低網平均に分離し、手間がかかり計算誤差の大きい処理が行われています。90年代になるとGPS測量が実用化しました。従来のTS観測値と結合した3次元処理により、より信頼性の高い効率的成果を得られるようになりました。欧米では、こうしたGNSSとTS観測の結合処理のソフトウエアが市販されています。

例1 MOVE3 http://www.carlsonsw.com/solutions/land-survey/move3/

例2 Trimble Total Control Software http://www.topomet.gr/hermes-content/uploads/2007/03/TotalControl.pdf

日本では、新しい技術が従来技術の中に封じ込められ、抜け出せずにいるのが現状のように思います。主たる原因は、業界とりわけ行政機関の不作為によるものと思います。

 まとめ

近年、TSを進化したモニタリングマルチ・ステーションが実用化しています。 <http://www.leica-geosystems.co.jp/jp/Leica-Geosystems_4389.htm

重要文化財や国宝などの3次元計測を事前に行い、地震時の崩壊の修復に大きな役割を果たします。加えて三菱MMSやUAVと組み合わせれば、町全体の地物を世界測地系座標で記述できます。前述の世界測地系座標で記述された3D地籍図や3D地積測量図は、その中に組み込まれ、境界確定に役立ちます。又、世界測地系座標で記述された他の資料とも互換が可能となり、災害時の復興にも大いに役立ちます。

GPS(米国) 、QZSS(日本)、GLONASS(ロシア)、Galileo(欧州)、BeiDo(中国)、IRNSSからNAVIC (Navigation with Indian Constellation).へ変更(インド) の衛星測位システムを統合的に利用するマルチGNSS時代において、座標が天から降って来るようになりました。「誰でも何時でも何処でも」正確な座標が得られる時代です。従来の相対測位時代から抜け出すことによって、衛星測位の利活用が大きく発展すると思います。精密単独測位(PPP)のセンチメートル級の確保には、セミ・ダイナミック リダクションが欠かせないものになると思います。又、座標観測値を確率変数として扱うために適当な分散の定義が必要となります。本稿は、ますます発展する技術を素直にそのまま受け入れ、セミ・ダイナミック リダクションのような必要な開発は前向きに進め、技術の発展を妨害する従来技術の枠内に押し込めるような後ろ向きなことは厳に慎み、新技術の国民生活への貢献を前向きに行うための提案としました。関係者のご検討に期待します。

【注1】【注2】
ネットワーク型RTKの規定の利用が少ないことは、測量成果検定機関への聞き取り調査によるものです。又、国土地理院に“利用実態の調査結果”及び/又は“調査の予定”を確かめましたが、“調査は実施されておらず、今後も実施の予定がない。(2014年10月20日回答)”との回答を得ました。

2016年5月12日
文責:技術顧問 中根 勝見

当社は「プライバシーマーク」を取得しました。当社では個人情報保護方針を定め確実な履行に努めて参ります。
個人保護方針
当社保守対応製品一覧のご案内です。 ATMS保守サービスの内容及び@tmsParkについての
ご案内